検索アイコン

サイト内検索

商品内検索

第532号 2002(H14).08発行

PDF版はこちら 第532号 2002(H14).08発行

 

 

茶園への窒素多肥による環境問題

野菜茶業研究所茶業研究部
(現:野菜茶業研究所葉根菜研究部)
徳田 進一

1.はじめに

 茶園の窒素施肥量は他の作物に比べて非常に多く,窒素多肥は土壌を酸性化させ,濃度障害と相まって,吸収根の量や活性を低下させ,茶樹自身の樹勢を低下させている。また,土壌の酸性化によって土壌環境の悪化も進み,その結果,茶園からの施肥窒素の溶脱による周辺水系の硝酸汚染や地球温暖化の原因なる亜酸化窒素の茶園からの大量放出などが問題となっている。

 環境にやさしい持続的な茶栽培技術を確立するために,硝酸性窒素や亜酸化窒素などの環境負荷物質の茶園からの発生量の実態調査と,発生量を削減するための技術開発が進められている。ここでは,それらの取り組みの現状について述べてみたい。

2.茶園からの硝酸性窒素の流出の実態と流出防止技術の開発

 茶園から溶脱した施肥窒素による周辺水系の硝酸汚染を軽減するには,最初に施肥窒素の収支を明らかにするとともに実態調査を行う必要がある。しかし,茶園における施肥窒素の収支に関する研究はそれほど多くない。静岡県茶業試験場で実施されたライシメーター試験の結果,年間窒素施肥量108kgN/10aの場合,窒素溶脱量は44kgN/10aで施肥窒素の41%に相当することが明らかにされている1)。また,永井は茶園に囲まれた井戸水の硝酸性窒素濃度が年々上昇し続けていることを報告しており2),施肥窒素のうち茶樹に吸収されない窒素が周辺水系に溶出し,硝酸汚染を引き起こしている可能性は高い。

 しかし,環境省が公共用水域の硝酸性窒素濃度の環境基準を設定したことから,窒素溶脱量を削減するための技術開発が急務となった。これに対し野菜茶業研究所では,静岡大学,静岡県農業試験場,静岡県茶業試験場と共同で,平成9年度から平成13年度まで,茶園周辺水系のモニタリングと窒素溶脱防止技術の開発に取り組んできた。

 窒素施肥量を大幅に削減した茶園の窒素収支をライシメーター試験で検討したところ,年間窒素施肥量50kgN/10aの場合溶脱量は15.5kgN/10aであった。一方,年間窒素施肥量30kgN/10aでは溶脱量が2.7kgN/10aとなり,溶出水の硝酸性窒素濃度も10mgN/L以下となることが明らかにされ3),窒素施肥量を削減することにより溶脱する硝酸性窒素の量を減らすことが可能であることが示された。

 現地でのモニタリングの結果でも,茶園周辺の湧水や小河川の硝酸性窒素濃度は平成7年頃には多くの地点で環境基準である10mgN/Lを超えていたが,現在では減肥技術の導入により徐々に濃度が下がってきている場合も見られるようになった4)。さらに,積極的に硝酸性窒素を除去する技術の開発も行われており,茶園下層土壌に設置した有機物層における脱窒反応による硝酸性窒素の除去,根菜類へのかん水として茶園溶出水を利用することによる硝酸性窒素の除去などの技術が検討され,一部は現地実証試験も行われている。

3.茶園からの亜酸化窒素の放出と放出量削減技術の開発

 亜酸化窒素は地球温暖化の原因となる温室効果ガスの一種で,国際的にもその発生量の正確な評価と発生量を削減する技術の開発が求められている。亜酸化窒素の大気中での濃度は300ppb程度と低いが,亜酸化窒素の温暖化係数は二酸化炭素に比べても非常に高い。この亜酸化窒素の農耕地からの放出量の実態調査が,農林水産省の委託事業として数年にわたって実施されたが,茶園からの亜酸化窒素放出量は他の畑作物に比べても非常に多いことが明らかにされた5)

 筆者らは茶園土壌の亜酸化窒素生成メカニズムについて詳細に検討を行ってきた。亜酸化窒素は土壌中では主に硝酸化成と脱窒により生成することが知られている。強酸性化した土壌では,化学反応によっても亜酸化窒素が生成することが知られているが,茶園土壌の場合,発生量全体に比べて無視できる程度であった。好気条件にある畑土
壌の場合,酸化反応である硝酸化成から亜酸化窒素が主に生成し,降雨直後のように土壌の水分含量が多く嫌気条件が発達しやすい場合には脱窒からも亜酸化窒素が生成することが知られている。

 ところが,茶園土壌の場合,硝酸化成抑制剤を加えて硝酸化成からの亜酸化窒素生成を抑制しても,無添加の場合の80%程度までしか低下しなかった6)。このことは,好気条件であるにもかかわらず,茶園土壌からは亜酸化窒素は主に脱窒から生成することを示しているが,好気条件下での脱窒による亜酸化窒素の大量生成は今までにほとんど報告されていない。さらに詳細に茶園土壌からの脱窒反応からの亜酸化窒素生成の特徴を検討したところ,窒素ガスはほとんど生成せず亜酸化窒素が主要な生成物であること,細菌だけでなく糸状菌も関与していること,土壌pHが低いほど亜酸化窒素生成量が多い,などの特徴が明らかにされた7)

 それでは,茶園からの亜酸化窒素放出量はどうすれば減らすことが出来るのであろうか。全国の茶園土壌の亜酸化窒素生成活性を室内試験で検討したところ,土壌pHが低くなるほど指数関数的に亜酸化窒素生成活性が高くなることが明らかとなった(図1)7)

image

 また,窒素施肥量を変えた茶園の亜酸化窒素放出量を圃場で測定したところ,年間窒素施肥量が30kgN/10aを超えると亜酸化窒素放出量が増加することが明らかとなった(図2)8)。以上の結果から,茶園からの亜酸化窒素放出量を削減するためには,窒素施肥量の削減と極端な土壌酸性化の矯正が有効であると考えられる。

4.窒素施肥量削減技術の開発

 茶園からの硝酸性窒素の流出と亜酸化窒素の放出は,どちらも窒素施肥量を削減することによって軽減することが出来る。それでは,どのようにすれば茶園の窒素施肥量を削減することが出来るのであろうか。野菜茶業研究所では年間窒素施肥量40kgN/10aを目標に減肥技術の開発を行ってきた。その結果,被覆尿素や石灰窒素を利用した減肥技術を提案している9)

 茶園は窒素肥料を年間10回程度にわけで施肥するが,これは茶樹が永年生作物であるため,早春から晩秋にかけての長期に渡って窒素を吸収し続けるからである。このような茶樹の窒素吸収パターンに合わせて,土壌中の窒素量を長期に渡って維持するには肥効調節型肥料が適している。特に被覆尿素は窒素含有率が高く茶園に適していると言える。また,中山間地の傾斜地に位置することが多い茶園での施肥作業は重労働であるが,肥効調節型肥料の利用により施肥回数を減らし,省力化も同時に行うことが出来ると考えられる。

 そこで,平成8年から4年間に渡って被覆尿素を使用した窒素施肥量と施肥回数を削減した施肥技術の開発を行った。試験は野菜茶業研究所内の赤黄色土壌の試験圃場(「おくゆたか」12年生)で実施した。年間72kgN/10aの窒素肥料を7回にわけて施肥する慣行試験区に対し,同じ72kgNを被覆尿素と硫安を併用して春肥に1回で施肥した試験区と,さらに39kgNにまで窒素施肥量を削減した試験区を設定した(図3)。過燐酸石灰と硫酸カリは春肥のみで,それぞれP2O5,K2Oで15kg/10a,石灰資材は秋肥に苦土石灰で110kg/10a施肥した。

 その結果,一番茶収量と品質の指標となる新芽の全窒素含量,遊離アミノ酸含量は試験区間で有意な差はなかった(図4)。また,試験3年目には少量製茶機を使用して一番茶を荒茶にまで製茶して官能審査を行ったが,内質・外観ともに試験区間で差はなかった(図4)。二番茶に関しても,収量と全窒素含量には試験区間で差はなかったが,遊離アミノ酸含量は39kgN/10aで試験2年目以降低下した。

 以上の結果,年間窒素施肥量を39kgN/10aにまで削減し,さらに全量を春肥に1回で施肥しても,一番茶の収量・品質と同程度に維持することが可能であることが明らかとなった。しかし,二番茶の品質が低下することから,二番茶の品質も重視する場合には摘採前に速効性肥料を分施するなどの工夫が必要であろう。

 一方,石灰窒素は戦前から利用されている資材で,それ自身が緩効性窒素肥料であるばかりでなく,主成分であるカルシウムシアナミドが酸度矯正効果,その分解生成物であるジシアンジアミドが硝酸化成抑制効果を持っているため,近年再び注目されている。この石灰窒素を有機配合肥料と併用し,慣行の112kgN/10aから40kgN/10a(うち,石灰窒素由来12kgN)にまで窒素施肥量を削滅した試験を,一般農家の協力を得て3年間実施した。その結果,一番茶・二番茶の収量と新芽の全窒素含量は試験区間で差はなかった(図5)。

 また,土壌中の窒素量も石灰窒素の併用により高く維持され,特にアンモニア態窒素の比率が高く,好アンモニア性といわれる茶にとって,好都合な結果となった。また,慣行施肥区では窒素多肥により肥料を吸収する根の多くが死滅してしまっていたが,石灰窒素を併用して窒素施肥量を減らすと, 土壌環境が改善され根が再生してくることがわかった(写真)。

5.茶園における今後の環境問題

 静岡県では,茶園周辺の湧水などの硝酸性窒素濃度は徐々に低下しつつあるが,これは周辺農家における減肥技術導入のおかげであろう。その一方で,現在も硝酸性窒素濃度が高い湧水も見られるが,これは地下水がすでに高濃度の硝酸性窒素を含んでいるためと考えられ,数年後には減肥の効果が現れると思われる。その一方で河川やため池から硝酸性窒素を除去する現地実証試験も実施され,上述の野菜栽培におけるかん水としての利用の他にも,逆浸透膜による硝酸性窒素の除去,脱窒資材による硝酸性窒素の除去,などが試みられている。試験研究機関ではさらなる減肥を目指して液肥の点滴施肥などの新しい施肥技術が開発されており,一般農家への普及が待たれるところである。

 茶園における窒素多肥に対しては,ここで述べた硝酸性窒素や亜酸化窒素以外にも多くの弊害が指摘されている。たとえば,土壌の酸性化により茶園土壌中の粘土鉱物が破壊され,生物にとって有害なアルミニウムが可溶化し,周辺水系に流入している可能性が指摘されている10)。これらの問題はすべて窒素多肥が原因となって引き起こされているのであり,窒素施肥量を削減することが茶園からの環境への負荷を軽減するためには必要不可欠である。

6.引用文献

1.静岡県茶業試験場:環境庁委託事業結果報告書・土壌汚染機構解析調査,昭和55年

2.永井茂:地下水学会誌,第33巻,145-154,1991年

3.渡部育夫:茶業研究報告(投稿中)

4.渡部育夫ら:茶業研究報告,第85号(別),100-101,平成9年

5.(財)日本土壌協会:平成7年度環境保全型土壌管理対策推進事業・土壌生成温室効果等ガス動態調査報告書,平成8年

6.Tokuda and Hayatsu:Soil Sci. Plant Nutr., Vol.46,835-844,2000年

7.Tokuda and Hayatsu:Soil Sci. Plant Nutr., Vol.47,637-642,2001年

8.徳田ら:平成12年度野菜・茶業研究成果情報,21-22,平成13年

9.野菜茶業研究所:「環境に優しい茶生産のための窒素施肥量削減技術」パンフレット,平成13年

10.加藤ら:中部土壌肥料研究,第89号,14-15,2000年

 

 

毛管ポットの夏秋トマトの
被覆肥料に対する利用技術

新潟県農業総合研究所 基盤研究部
主任研究員 本間 利光

1.はじめに

 新潟県は’コシヒカリ’に代表される良食味米の主産県である。しかし,近年の米価の低迷,生産調整面積の増大等により生産者の農業所得は大きく減少し,水稲栽培以外での所得確保が求められている。生産調整田については大豆等の土地利用型作物の導入が図られつつあるが,県内の多くの水田は重粘土質のため安定生産に向けた技術開発が今なお進められている。

 一方,水稲における’苗作り’は簡易なパイプハウスを利用した育苗が主流となっており,その面積は県全体では約500haと推定されている。これらのパイプハウスは水稲育苗が終了した後(5月上旬)は一部を除いて次年度まで有効利用されていないのが現状である。そこでこれらのハウスに園芸作物を導入しハウスの有効利用を図る目的で,稲作農家でも取り組める低コストで簡易な養液栽培装置(以下,’毛管ポット耕’)を開発した。今回は被覆肥料を用いた毛管ポット耕について述べる。

2.毛管ポット耕の特徴(図1参照)

(1)防根透水性を有する特殊ポリエステル製の不織布ポットに土壌を充填し作物を移植し,装置上で栽培する。

(2)ポット下部に配置した樋内に養液または水を満たしておき,不織布を利用した毛管現象でポット底部から土壌・作物ヘ給液する。

(3)作物の吸水等により減少した養液または水をボールタップ等により自動供給する。

 現在,図1の雨樋内には養液栽培用の液肥を入れ,必要に応じて養液濃度を変更しながら栽培する方法がとられている。この方法では生育・気象状況に対応したリアルタイムな養液の制御が可能であるが,定量ポンプ等を用いなければ生産者がその都度養液を作成する必要があり,肥培管理の上で煩雑さを伴う。

 そこで,省力(養液を作成しなくて済む)および低コストを目的に培地内にあらかじめ被覆肥料を混和し,水道水等を補給するだけの栽培体系を検討した。

3.試験方法

 試験区は表1の通り被覆肥料を用いた5試験区および養液土耕用肥料を用いた対照区を設けた。被覆肥料はロングショウカル,ロングトータル及び被覆カリを用いて窒素で8g/株を移植前日に培土混和した。養液土耕肥料の窒素濃度は123mg/L(5/12~7/17)及び82mg/L(7/18~8/16)とした。また,培土中にはN:P2O5:K2O=0.1:1.4:0.1g/株を含んでいる。2001/3/3にトマト’桃太郎’を播種し, 5/12に無加温パイプハウス内のポットに移植し,自根で栽培した。栽植密度は3000株/10a相当とした。収穫は6/18~8/16で概ね7段目までとした。土壌溶液はポット用ミズトールと真空採水管を用いて1回約9ml採取した。

4.結果

 生育初期の草勢はC<B2<B≒A<対照<B3の順に強勢であったが,収量はA≪C≒B2≒B3<B1<対照であった。糖度はCを除き被覆肥料区で高く,酸度及びアスコルビン酸含量はA・C区で低かったがB1~3区で高かった(表2)。

 土壌溶液EC値は対照区で梅雨明け前まで約2dS/mであったが,被覆肥料区では高濃度で推移し変動も大きかった(図2)。

 また,A区は初期より葉のチップバーン症状および果実のカリ欠症状がみられ,トマトではロングトータルの肥料組成は適当ではなかった。C区は葉色が淡く微量要素欠乏症がみられた。これは用いた珪酸カリの影響で土壌溶液pHが8程度まで上昇したのが原因と思われる(図3)。

 以上より,被覆肥料を利用したトマトの毛管ポット耕では,ロングショウカル(100)と被覆カリ(100)を用いることにより,収量は対照の約90%(7660kg/10a)であるが,糖度等がやや高い果実が得られることがわかった。糖度上昇は養分吸収および肥料溶出の不一致による土壌溶液の高濃度化に伴う水分ストレスによるものと考えられた。

5.おわりに

 現在,養液栽培においては養液の殺菌・成分の再調整により使用済み養液を系外に排出しない「環境にやさしい」技術開発が進められているが,生産農家にとっては「環境にやさしい」よりはむしろ「低コスト」といった意識が強く,この傾向は園芸作物の価格低迷やセーフガードの発動等に見られるように最近になってより顕著になってきている。

 しかしながら,平成12年に地下水中の硝酸性窒素等の濃度が環境基準で10mgL-1に設定されるなど農業の環境に対する負荷軽減が今日的な課題となっており,養液栽培においても掛け流し栽培等により100mgL-1を超えるような使用済み養液の排出はいつまでも許されるものではなく,今後は低コスト化を図りつつ閉鎖的な養液管理が求められる。そういった観点から毛管ポット耕を1つの参考事例にしていただければ幸いである。

 最後に,毛管ポット耕は全て市販の資材を使用しており,誰でも容易に設置が可能である。また,資材費は約3000 円/3.3㎡以下で済むため,興昧のある方は是非チャレンジしてみてください。

 

 

茶園への施肥形態と施肥時期が窒素の動向に及ぼす影響
-被覆肥料を中心に-

愛知県農業総合試験場
豊橋農業技術センター茶業研究室
木下 忠孝・辻 正樹

 茶は窒素肥料を多く施用する作物の代表格で,府県の施肥基準をみても窒素成分で10a当たり50kg以上に設定されているのがほとんどである。品質が良くなるからと施肥基準以上の窒素を施用する生産者も少なくない。そのため,茶は窒素肥料の減肥が強く求められている。その減肥を図る手段として現在,被覆肥料は欠かせないものとなっている。

 茶畑が野菜や果樹などの畑と異なるところとして酸性土壌であること,肥料を茶園面積の1/5~1/6 のうね間に集中して施用することがあげられる。したがって,うね間には10a当たりの施肥量の5倍から6倍の肥料が施されることになる。

 このような肥培管理上の特徴を持つ,茶畑の窒素動態を明らかにする一環として,(1)茶畑と野菜畑で被覆肥料の窒素の動きは異なるか,(2)肥料の種類により窒素の動きがどう異なるかを春季と秋季の時期に検討した。

1.茶畑と野菜畑で被覆肥料の窒素の動きは異なるか?

 供試畑として愛知県農業総合試験場豊橋農業技術センターの茶畑と野菜畑(いずれも黄色土)を用いた。

 2000年10月17日に茶畑と野菜畑それぞれに㎡当たり被覆肥料(尿素40日タイプ)を窒素成分で40g施用した。施用後,直ちに深さ5cmまで混合した。そして,所定の日時に0~10cmの深さからオーガ用いて土壌を採取し,アンモニア態窒素並びに硝酸態窒素を分析した。また深さ30cmから降水量が20mm以上あったとき,土壌溶液を採水し,溶液中のアンモニア態窒素と硝酸態窒素を分析した。

結果

 図1に土壌中におけるアンモニア態窒素と硝酸態窒素の推移を示した。茶畑並びに野菜畑とも日を経るに伴った無機態窒素(アンモニア態窒素+硝酸態窒素の合量)は高くなる傾向にあった。しかし,その様相は茶畑と野菜畑では異なっていた。茶畑においては日を経るに伴って無機態窒素は顕著に増加した。またその増加はアンモニア態窒素によるところが大きかった。それに対して野菜畑は,茶畑に比べて増加は緩慢であり,その増加も硝酸態窒素によるところが大きかった。

 図2に土壌溶液中の硝酸態窒素とアンモニア態窒素濃度の推移を示した。硝酸態窒素は野菜畑では日を経るに伴って徐々に濃度が高くなったが,茶畑では濃度上昇はみられなかった。

 これらのことからこの時期に茶畑に施された被覆肥料は,野菜畑と同様な速度で溶出はする。しかし,硝酸化成は抑制される。その結果アンモニア態窒素の形で表層でとどまるため,下方への窒素の移行は抑制されたものと考えられる。一方,野菜畑では溶出したアンモニア態窒素は速やかに硝酸態窒素となる。硝酸態窒素は土に吸着されないため下方ヘ移行する。すなわち茶畑では溶出と下方への移行の間にラグタイムが生じやすいことを示している。

2.肥料の種類により窒素の動きがどう異なるか

(1)春季

 豊橋農業技術センターの茶園で2001年2月21日に供試肥料として,菜種油粕,硫安及び被覆肥料(尿素70日タイプ)を用い,窒素成分でそれぞれ㎡当たり40g施用した。そして深さ0~10cm,15cm~25cm及び30cm以下から採土を行い,アンモニア態窒素と硝酸態窒素を分析した。また降雨が20mm以上あったとき土壌溶液を30cm及び50cmの深さから採水し,溶液中のアンモニア態窒素と硝酸態窒素を分析した。

結果

 表1に肥料別の土壌中のアンモニア態窒素と硝酸態窒素の推移を示した。アンモニア態窒素と硝酸態窒素の推移をみると,硫安は施用後よりアンモニア態窒素が高い値を維持し,試験終了時までアンモニア態窒素濃度が硝酸態窒素より高い値となった。また,30cm以下においてもアンモニア態窒素濃度の上昇がみられた。被覆肥料は0~10cmにおいては日を経るに伴って高くなった。しかし,30cm以下は低い値で推移した。

 菜種油粕も,0~10cmにおいてはアンモニア態窒素濃度が高くなったが,30cm以下での値は低いままで推移した。

 表2に土壌溶液中の硝酸態窒素とアンモニア態窒素濃度の推移を示した。各区とも硝酸態窒素は5月6日になって高くなった。菜種油粕は60ppmと最も高くなった。次いで硫安であった。被覆肥料は12ppmと最も低かった。アンモニア態窒素は硫安施用が初期より試験区中最も高い値で推移した。しかし,被覆肥料はほとんど認められなかった。

 以上のことから,春季においては硝酸化成は抑制される。その結果被覆肥料や菜種油粕はアンモニア態窒素のままとどまり下方への移行は少ない。しかし,硫安はアンモニア態窒素のままで下方ヘ移行することが示された。すなわち,この時期の被覆肥料は溶出と下方への移行との間にラグタイムが生じやすいことを示している。

(2)秋季

 春季と同じ試験区に2001年8月21日に再び施用した。用いた肥料並びに処理法は春季と同じとした。

結果

 表3に肥料別の土壌中のアンモニア態窒素と硝酸態窒素の推移を示した。秋季は春季に比べていずれの区も硝酸態窒素が多い傾向にあった。硫安は施用後よりアンモニア態窒素が高い値を示した。しかし,試験終了時にはアンモニア態窒素,硝酸態窒素とも低くなった。また30cm以下においてもアンモニア態窒素濃度が高くなった。被覆肥料は0~10cmにおいてはアンモニア態窒素濃度は硫安より低いものの初期から高くなった。硝酸態窒素濃度も9月26日から高くなり,試験終了時まで高い値を維持した。しかし,30cm以下は9月26日に高くなった他は低い値で推移した。

 菜種油粕は,0~10cmにおいては被覆肥料と同様アンモニア態窒素濃度が初期から高くなった。硝酸態窒素濃度も9月26日から高くなった。しかし,11月15日には硫安より低くなった。30cm以下は9月26日及び10月12日にやや高くなった。

 表4に土壌溶液中の硝酸態窒素とアンモニア態窒素の推移を示した。春季と異なり各肥料とも硝酸態窒素濃度は9月12日から高くなった。肥料別にみると硫安が試験期間中を通じて最も高い値を示した。また,初期にはアンモニア態窒素もみられた。被覆肥料と菜種油粕の硝酸態窒素は,硫安より低い値で推移した。

 以上のことから,秋季においてはいずれの肥料でも硝酸化成は春季に比べて速やかに進行する。その結果硝酸態窒素が生成され,窒素成分は硝酸態窒素の形で下方ヘ移行するものと考えられる。

 すなわち,この時期は供試したいずれの肥料も窒素の溶出と下方への移行の間のラグタイムは大きくはないと思われる。

3.まとめ

 本試験の結果から,被覆肥料は茶園では野菜畑と同様な速度で溶出はするものの,その後の硝酸化成が地温の低い時期には抑制される。その結果,窒素の溶出と下方への窒素移行の間にラグタイムが生じる可能性があることが示唆された。参考のために,春季と秋季の茶園土壌の地温(10cm)を表5に示した。

 今までは,ともすると被覆肥料は土の酸性が強くとも,ほぼ理論通りに溶出するという優れた特性を備えていることから,茶畑でも野菜畑などと同様,溶出パターンからどのようなタイプを使用するか,いつの時期に施用するかなど使用法が検討されてきた。被覆肥料にみられるこのような下方への窒素移行の抑制は,肥料の溶脱防止につながり減肥に寄与する反面,時には根群域への窒素成分の供給が不十分となり収量・品質の低下につながる可能性がある。被覆肥料を茶園の施肥の適性化に活かしていくには,上記のような特性を持っていることを理解した上で施肥法を検討する必要があろう。